ホーム>http://mainichi.jp/
記者の目:在韓被爆者を取材して=加藤小夜(広島支局)
毎日新聞 2013年08月14日 00時15分(最終更新 08月14日 09時31分)
http://mainichi.jp/opinion/news/20130814k0000m070098000c.html
▼全文転載
◇援護の枠外に目を向けて
「私たち日本人は、唯一の、戦争被爆国民であります」8月6日、広島市の平和記念式典で、安倍晋三首相があいさつで述べた言葉だ。米国が投下した原爆で被爆 したのは日本人だけではない。今春から韓国在住の被爆者を取材している私は、首相の言葉に「なぜ」と疑問を抱いた。外国人被爆者の存在を無視しては、被爆 の実相を把握したことにはならないからだ。
◇広島で3万人 長崎で1万人
1945年8月の広島や長崎には、日本が植民地として支配していた朝鮮半島出身者が多数いた。広島市・ 長崎市原爆災害誌編集委員会が79年に編集した「広島・長崎の原爆災害」(岩波書店)は、被爆した朝鮮半島出身者を広島で約3万人、長崎で約1万人と推計 した。このほか、台湾・中国人、米国出身日系人、連合国の捕虜らも被爆した。植民地出身の被爆者の多くは、戦後、故国に帰り、「在外被爆者」となった。厚生労働省によると、海外在住で被爆者健康手帳を持つ人は約4450人。うち韓国在住が約3060人と約7割になる。
在外被爆者は手帳を持っていても、日本の被爆者が受けられる援護と格差があった。原因は旧厚生省が74 年に出した「402号通達」だ。渡日すれば、日本滞在中は日本の被爆者同様に治療が受けられ、手当も支給された。だが、日本を出れば医療費助成も手当も受 けられなかった。通達は在外被爆者の訴訟で国が敗訴し、2003年に廃止された。
それまでの約30年、在外被爆者にとって手帳が役立つものでなかったため申請を諦めた人は少なくない。大韓赤十字社は、被爆しながら手帳を持っていない韓国人112人を確認している。
被爆の証しとして、また医療支援を求めて手帳取得を希望しながら、かなわないケースは韓国ではまだ多 い。11年には、手帳を持たない54人が、被爆状況や、被爆を証明する証人が見つからない事情を記した陳述書を韓国原爆被害者協会に寄せた。日本の支援団 体「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」の河井章子さん(56)は昨夏、その陳述書を入手。私は、今年5〜6月に河井さんの渡韓調査に同行し、手帳を持 たない「被爆者」を取材した。
陳述書を送った一人で、ソウルで暮らす朴煥文(パクファンムン)さん(78)は、弟の煥鳳(ファンボ ン)さん(74)や両親らと、広島の爆心地の北約15キロにある旧可部町(現広島市安佐北区)の寺で負傷者の看護や遺体を焼く作業を手伝った。「けが人 は、はじめは本堂に運ばれたが、縁側や庭木の下にも運ばれた。治療のために服をまくり、遺体を運んだ」。証言は詳細だった。
朴さんは06年に手帳を申請した。だが、被爆を証明する証人がおらず、寺の名前も不明だったため、申請書は送り返されてきた。朴さんの願いを胸 に、河井さんらは、可部の古い住民を尋ね歩き、寺が今も残る「品窮寺(ほんぐうじ)」と特定した。また、兄弟の家が朝鮮半島出身者が暮らす集落にあり、集 落の子供らが救護を手伝ったことを証言してくれる95歳の女性も見つけた。兄弟は再度の申請を準備している。
◇証人探し難航 手帳取得の壁
手帳の申請を巡っては、旧厚生省の通達で、公的証明書や写真などの記録、第三者「2人以上」の証明書の 添付を求めている。これらがなくても本人の申述書でも申請できるとしているが、書類や証人不在で交付が認められるケースは多くない。朴さんの場合も女性は 被爆の直接の証人ではないため、手帳の交付に結びつくかどうかは分からない。また、陳述書を寄せた韓国人被爆者で、朴さんのように証人が見つかったケース はまれだ。ほとんどの人が手帳取得の見通しは立っていない。韓国で暮らす被爆者の話を聞いていると、「広島におったけえ」「助けてくれー(という声を聞いた)」など、時折、日本語が飛び出す。被爆時の傷痕を必死に見せてくれる人や、原爆の衝撃で言葉を失ったという女性もいた。手帳への思いは真剣だった。
6日の平和記念式典後に開かれた「被爆者代表から要望を聞く会」で、韓国原爆被害者対策特別委員会は安倍首相や田村憲久厚労相らに対し、被爆者健康手帳を申請する際の証人探しの難しさを直接訴え、心ある対応を要望した。しかし、答えは一切なかった。
援護の枠外に置かれ続けている手帳のない在外被爆者に残された時間は長くない。また、手帳を取れないま ま亡くなっていった人たちもいる。国や行政は、日本人と同様に原爆の災禍に見舞われた被爆者であるにもかかわらず、差別し、援護の枠外に追いやってきた責 任を感じてほしい。そして、残された在外被爆者の手帳取得に対し、被爆の立証責任を負わせるのではなく、被爆を証明するための支援の手を差し伸べてほし い。
ホーム>http://mainichi.jp/
毎日新聞購読申し込み
https://form.mainichi.co.jp/annuncio/koudoku/form.html
サンデー毎日(定期購読のお申し込み)
http://www.mainichi.co.jp/publish/magazine.html
0 件のコメント:
コメントを投稿